リンパ浮腫

浮腫とは

浮腫はいわゆる「むくみ」のことで、細胞や組織の間に水分である体液が溜まっている状態です。
浮腫は、毛細血管やリンパ液の吸収バランスが何かしらの原因で取れなくなって起こります。毛細血管から体液が絶えず漏れ出て細胞や組織などに酸素や栄養分を届けていますが、その後、二酸化炭素や老廃物を取り込んで血管が再吸収しています。さらにリンパ液もリンパ管から体液を吸収して運搬しています。そこで、漏れ出る体液が多すぎる、あるいは吸収がうまくいかない状況になると浮腫が起こります。そのため、浮腫は全身のどこにでも起こる可能性があります。

リンパ浮腫とは

リンパ浮腫には、手術や放射線治療などが誘因となり発症する「続発性リンパ浮腫」と、原因が明確ではない「原発性リンパ浮腫」があります。

リンパ浮腫の症状

発症後の進行は比較的ゆっくりで、他の症状をともなわないことがほとんどです。ただし、抗がん剤の副作用などを原因に浮腫が急激にできた場合には、皮膚が赤くなる、熱っぽい、皮膚の硬化など、強皮症様症状が見られる場合もあります。また、乳がんの手術後であれば手術した側の腕に浮腫が起こりますが、骨盤内で行う婦人科の手術後の場合は片方のみならずもう片方にも浮腫が生じる場合があります。

リンパ浮腫の進行

放置した場合、軽い浮腫が長く続くケースもあれば、発症後急激に進行して重症の浮腫になる場合もあります。したがって、軽いうちに適切な治療を開始すれば、完治しないとしても比較的生活に支障を及ぼさないようにコントロールできる場合がほとんどですので、むくみに気付いたら早めにご相談ください。

リンパ浮腫の診断

まず、問診を行って、むくんでいる部分を視診と触診で丁寧に診ていきます。さらに血液検査で全身状態を確認したら、超音波検査を行って、浮腫の状態だけでなく、静脈に病気が隠れていないかを確認します。リンパ浮腫の詳しい診断に使われるのは「リンパ管造影」「リンパ管シンチグラフィー」「蛍光リンパ管造影」ですが、当院では行っておりません。

リンパ浮腫の治療方法と治療方針

圧迫やリンパドレナージなどによる保存的治療が基本ですが、手術などの外科的治療が必要になる場合もあります。
むくみの状態、発症してからの期間、原因となった病気の状況など、診療の結果を基に適した治療法を決めていきます。
治療はいわゆる保存的治療である複合的理学療法が主体となります。それに生活習慣の改善なども必要となる場合があります。複合的理学療法において最も大事なものが弾力性ストッキングや圧迫療法ですが、これが適切に行えているかを確認するために定期的な通院が必要です。安定した方では年2回で十分ですが、開始直後や状態が安定していない場合は短い場合1−2週間毎に来院していただく。
手術の検討が必要になるのは、保存的療法で思うような治療効果が出ない場合や、炎症を繰り返すケース、そして皮膚合併症が生じている時などです。

複合的理学療法

浮腫のある部分を安静にすること、そして挙上(患部をできるだけ心臓より高い位置を保つ)といった日常生活の指導に加え、適切なリンパドレナージや圧迫などを行って症状を改善させる療法です。リンパドレナージ、圧迫療法、圧迫下上での運動療法、スキンケアなどから、適したメニューを組んでいきます。
複合的理学療法は、リンパ浮腫の治療の基本であり、患者さまご自身が行っていくものですから、適したやり方をしっかり覚えることが重要です。
なお、リンパ浮腫は手術でも完治は難しいため、術後にこうした複合的理学療法が不可欠です。

スキンケア

乾燥を防ぐなど正しいスキンケアは皮膚のバリア機能を高めます。リンパ浮腫が生じている部分は蜂窩織炎という炎症を起こしやすく、炎症によって浮腫が急激に悪化する可能性があります。炎症は細菌感染によって起こりますので、皮膚のバリア機能を高めて感染しにくくすることが浮腫の悪化予防につながります。浮腫を起こしている部分は、乾燥や角化によるひび割れが起こりやすく、また足指であれば蒸れにより水虫になりやすい環境です。保湿や角化の改善、水虫の治療をしっかり行ってください。
また、浮腫がある場合、鍼治療など皮膚を傷付ける可能性があることはやめてください。日焼けもできれば避けてください。また、プールや温泉など、裸足で歩き回る機会が多くなることもできればやめておく方が安心です。

リンパドレナージ

手や足にうっ滞したリンパを排除する手技で、周辺にある正常なリンパ管系にうっ滞を起こしているリンパ液が流れるわき道を作って排出させます。

リンパドレナージの基本手技・手順

浮腫のできている場所などにより手技の内容が大きく変わってきますので、治療法を習得しているセラピストに適切な方法の指導を受ける必要があります。こうした手技ができるセラピストについても、当院ではご紹介しています。
なお、リンパ浮腫治療としての医療リンパドレナージは、基本的に医師や看護師、理学療法士、作業療法士、マッサージ師といった国家資格を持つ医療従事者が、専門的な訓練を受けて行うものです。医療従事者でないセラピストから受けることは論外ですし、医療従事者であってもリンパドレナージの専門的な教育を受けていない場合は不適切です。必ず、こうした点をご確認ください。

リンパドレナージの有効性について

乳がんなどの手術後、リンパ浮腫ができない場合もありますし、術後十年以上経過してから発症する場合もあります。リンパドレナージを受けていれば浮腫はできないと断言できるほどの研究結果はありませんが、うっ滞を起こしたリンパ液を正常に流すためのわき道を作りやすいと考えられています。また、浮腫が起こる前にリンパドレナージを定期的に行うことで、皮膚の硬化などリンパ浮腫の発症を早期発見できる可能性があり、早期治療につながります。

エステなどのリンパマッサージ

エステなどが行う「リンパマッサージ」などは、リンパ節を取る手術を受けていない場合に適しています。リンパ管の異常によって起こる浮腫には、こうしたマッサージが逆効果になる可能性もあります。
医療リンパドレナージを治療として受ける場合には、施術者が国家資格を持った医療従事者であり、専門的な教育を受けていることを必ずご確認ください。

圧迫療法

圧迫療法はリンパ浮腫の基本的な治療法です。圧迫方法によって浮腫改善には差が生じますので、適した方法を選びます。また、不適切な圧迫が逆効果につながる場合もありますので、ご注意ください。

弾性ストッキングやスリーブ・グローブなどの弾性着衣

食い込んでいる部分がある場合、改善せず状態が悪化する可能性があります
また、圧迫が強過ぎる場合、皮膚が硬くなってしまうこともあります。
適切な弾性着衣の選択や着用には、全身や手足の状態を専門的な訓練を受けた医療従事者がしっかり確認した上で行う必要があります。
選ぶ目安としては、大腿部で食い込みやすい場合は片足の浮腫でもパンストタイプを選ぶ、膝などが食い込みやすい場合は生地が分厚いものを選ぶなどがあります。また、袖の場合には、上腕や手首に食い込み過ぎないよう注意が必要ですし、食い込みを和らげるためにスポンジを使用するなどの方法もあります。
サイズが限られていますし、着脱が難しいことから、弾性包帯を使用する場合もありますが、弾性包帯についても正しい方法で付けなければ効果がないことや、悪影響も考えられます。
重要なのは、むくみの状態や部位、患者さまの状態に合わせて、リンパ浮腫治療について熟練した医療従事者のセラピストに相談することです。
弾性着衣で改善しない、あるいはうまくつけられないなどお悩みがあいましたら、お気軽にご相談ください。

弾性着衣・弾性包帯の保険申請について

弾性着衣や弾性包帯は治療目的で購入しますので、医師が記入した指示書と領収書があれば保険申請が可能です。
国保の場合は各市町村の窓口に、社会保険では社会保険事務所や各保険窓口に、指示書と領収書を持参して申請してください。

手術の際に使った深部静脈血栓症予防のための弾性ストッキングは、リンパ浮腫に使用することはできません。これは、あくまでも臥床している時期のためのものであり、日常生活での使用には適していません。また、リンパ浮腫に適した圧迫力やサイズではありません。またリンパ浮腫予防にも役立ちません。

運動療法

圧迫した上で運動すると、弾性着衣と筋肉の間の皮下組織にあるリンパ管が刺激され、リンパ液が運搬されやすくなります。散歩など軽い運動でも効果があり、激しい運動はおすすめできません。習慣的に軽い運動を行うことが有効ですから、無理のない範囲で続けられる運動を選びましょう。また、運動によりむくみが悪化した場合にはすぐに運動を中止してください。圧迫した上で運動することは有効ですが、圧迫しないで運動することや、圧迫してもむくみがある場合には悪化する可能性がありますのでご注意ください。

その他の治療

リンパ管-静脈吻合手術

流れが悪化しているリンパ管を正常に流れている静脈につなぐ手術です。効果的な吻合ができれば浮腫の改善が見込めますが、もともとリンパ管が痛んで発症しているため正常な状態まで完治させることはできません。そのため、ほとんどのケースで術後も圧迫が必要になります。
蜂窩織炎を繰り返す場合や、外陰部や陰嚢の浮腫が強いケースでは手術が適しています。リンパ浮腫発症早期の手術が有効だとされていますが、その場合には圧迫だけで症状が改善することも多いため、一概に早期の手術がすすめられるわけではありません。

器械でのマッサージ

間欠的空気圧迫法と呼ばれており、空気圧によりむくみを押し上げる方法です。
空気が入る袋をむくみのある手足にかぶせ、袋に空気を間欠的に送って圧迫します。使用後の圧迫が不可欠であり、圧迫をしない場合には効果が持続しません。そのため、施術後すぐに圧迫着衣や圧迫包帯をつける必要があります。

薬物療法

リンパ浮腫を解消するための薬物療法はありませんが、蜂窩織炎などの炎症には抗生剤が使われますし、高齢で重傷の浮腫がある場合には治療中の血管内血液増加を防ぐため利尿剤が使われるケースもあります。

医療法人静かなる凛脈の会 まつもとデイクリニック TEL:088-880-0533 診療時間 月〜水・金 8:30〜11:00、15:30〜17:30 木・土 8:30〜9:00、13:30〜14:30 日帰り手術 月〜水・金 11:00〜15:30、木・土 9:00〜13:30
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